締め付けトルクの計算式
ねじを締める力(軸力)を出してから、それを生むのに必要なトルクを求めます。
締め付けトルク T = トルク係数 K × 呼び径 d × 軸力 F
降伏点 = 強度区分の 前の数字×100 × 後の数字÷10
強度区分8.8なら、引張強さ800MPa、降伏点はその80パーセントで640MPaという読み方です。10.9なら1000MPaの90パーセントで900MPa。数字がそのまま材料の性質を表しています。
強度区分と材料の性質
| 強度区分 | 引張強さ / 降伏点 |
|---|---|
| 4.8 | 400 / 320 MPa |
| 6.8 | 600 / 480 MPa |
| 8.8 | 800 / 640 MPa |
| 10.9 | 1,000 / 900 MPa |
| 12.9 | 1,200 / 1,080 MPa |
ステンレスのA2-70は引張強さ700MPa、降伏点450MPa前後です。強度区分の表記とは体系が違うので、混同しないよう注意してください。
ねじの有効断面積
| 呼び径 | ピッチ / 有効断面積 |
|---|---|
| M4 | 0.7 / 8.78 mm² |
| M5 | 0.8 / 14.2 mm² |
| M6 | 1.0 / 20.1 mm² |
| M8 | 1.25 / 36.6 mm² |
| M10 | 1.5 / 58.0 mm² |
| M12 | 1.75 / 84.3 mm² |
| M16 | 2.0 / 157 mm² |
| M20 | 2.5 / 245 mm² |
有効断面積は、ねじ山の谷径と有効径の中間で計算される断面です。ボルトが引っ張られたときに実際に力を受け持つ面積で、呼び径の断面積より小さくなります。
トルク係数がすべてを左右する
この計算で最も不確かなのがトルク係数です。摩擦の大きさを表す値で、締め付けの条件によって大きく変わります。
| 状態 | トルク係数の目安 |
|---|---|
| 黒皮・潤滑なし | 0.20 前後 |
| 亜鉛めっき | 0.20 前後 |
| 油を塗った状態 | 0.15 前後 |
| 二硫化モリブデン | 0.10 前後 |
同じトルクで締めても、油を塗ったボルトは潤滑なしより3割以上大きい軸力が出ます。逆に言えば、潤滑なしを前提にしたトルク値で油を塗ったボルトを締めると、締めすぎて降伏させる可能性があります。
トルク管理の限界
トルクレンチで管理していれば軸力も正確、というのは誤解です。かけたトルクのうち、実際に軸力になるのは1割程度しかありません。残りはねじ面と座面の摩擦で消えます。
つまり摩擦のばらつきが、そのまま軸力のばらつきになります。トルク法での軸力の誤差はプラスマイナス30パーセント程度というのが一般的な認識です。
軸力を厳密に管理する必要がある場面では、一定トルクまで締めてから決められた角度だけ回す回転角法や、超音波で軸力を直接測る方法が使われます。上の計算結果はあくまで出発点として扱ってください。
実例:M10・強度区分8.8を計算する
最もよく使われる組み合わせのひとつ、M10並目・強度区分8.8・潤滑なし(トルク係数0.2)・締付率70%で式を追ってみます。
トルク T = 0.2 × 0.010 m × 26000 N = 52 N·m
ここで潤滑の怖さも数字で確かめられます。同じ52N·mのまま、油を塗ってトルク係数が0.15に下がったとすると、軸力は52÷(0.15×0.010)で34.7kNまで跳ね上がります。このボルトの降伏軸力は58.0×640で約37.1kN。つまり降伏の9割を超えるところまで締まってしまう計算です。
トルク値だけを覚えて条件の違うボルトに流用してはいけない理由が、この2つの数字の差です。締める前に、めっきと潤滑の状態がトルク値の前提と合っているかを確認してください。
よくある質問
同じボルトなのに資料によって締め付けトルクが違うのはなぜですか?
トルク係数と締付率の前提が資料ごとに違うためです。トルク係数は摩擦の大きさを表す値で、潤滑なしなら0.2前後、潤滑ありなら0.15前後を使います。締付率は降伏点に対してどこまで締めるかの割合で、一般には70パーセントです。この2つが変われば結果も変わるため、表の数値を使うときはどの前提で作られたものかを確認してください。
トルクレンチで管理すれば軸力は正確に出ますか?
正確とは言えません。トルク法では、かけたトルクの大部分がねじ面と座面の摩擦で消費され、実際に軸力になるのは1割程度です。摩擦のばらつきがそのまま軸力のばらつきになり、誤差はプラスマイナス30パーセント程度に及びます。軸力を厳密に管理したい場合は、回転角法や軸力計を使う方法が選ばれます。
強度区分10.9や12.9のボルトを使えば安心ですか?
用途によっては逆にリスクになります。高強度のボルトほど水素脆性による遅れ破壊を起こしやすく、締結してしばらく経ってから突然折れることがあります。特に亜鉛めっき品や腐食環境では注意が必要です。強度区分が上がるほど締め付けの管理もシビアになるため、必要な軸力が確保できるなら8.8で足りる場面は多くあります。
メーカーの指定トルクがある場合はどちらを使いますか?
必ず指定トルクを優先してください。自動車のホイールナットやエンジン部品、機械の取扱説明書にあるトルク値は、座面の形状・めっき・潤滑条件・相手材まで含めて決められた値です。この計算機が出すのは、そうした指定がない一般のボルトを締めるときの理論値であって、指定値を上書きするものではありません。指定トルクの根拠になっている条件(ねじ部に油を塗るかどうかなど)が書かれていれば、それにも従ってください。
出典
このページの数値は、次の資料と照合しています(確認日 2026年10月2日)。
- 鋼製ボルト・小ねじの機械的性質(JIS B 1051 抜粋)(三木プーリ)— 強度区分(4.8〜12.9)ごとの引張強さ・降伏点と、ねじの有効断面積(ステンレスの A2-70 は対象外)